2023年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績 ― 患者さんのための解説

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2023年
体外受精・胚移植等の臨床実施成績

患者さんのための解説資料

日本産科婦人科学会が毎年公表している「ARTデータブック」をもとに、日本全国の体外受精(IVF)・顕微授精(ICSI)・凍結融解胚移植(FET)の実施件数や妊娠率・生産率などのデータを、一般の患者さん向けにわかりやすくまとめたものです。

出典:日本産科婦人科学会「2023年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績」
作成日:2026年7月

はじめに

日本産科婦人科学会(JSOG)は、国内で実施されている生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)の治療周期数や妊娠・出産の結果を毎年集計し、「ARTデータブック」として公表しています。今回解説するのは2023年に実施された治療の成績です。日本は世界で最もART治療の実施件数が多い国のひとつであり、この統計は不妊治療を検討している方・現在治療中の方にとって、治療計画を考えるうえでの重要な目安になります。

このデータの見方として、まず結果は全国の登録施設からの集計値であり、個々の患者さんの妊娠しやすさ・治療成績は、年齢だけでなく卵巣機能、不妊の原因、これまでの治療歴などによって大きく異なる点にご留意ください。統計はあくまで「集団としての傾向」を示すものであり、個別の治療方針は主治医とよく相談して決めることが大切です。

2023年の全体像を先に見てみましょう。 日本全国で 561,664周期 の治療が行われ、82,250周期 が出産(生産)に至り、85,048人 の子どもが生まれました。これは日本国内で生まれた子どものおよそ9人に1人がARTによって誕生したことを意味します。またART由来で生まれた子どものうち約95%は、凍結した胚をいったん保存し、後日融解して移植する「凍結融解胚移植(FET)」によるものでした。
561,664総治療周期数(2023年)
115,554妊娠周期数
82,250生産周期数(出産に至った周期)
85,048出生児数(多胎を含む子どもの数)

1. 治療周期数と出生児数の年次推移(2001年〜2023年)

日本のART治療は年々増加してきました。2001年には年間約7万6千周期だった治療周期数は、2023年には約56万周期と、20年余りで7倍以上に増えています。一方で、治療の中身は大きく様変わりしました。かつては採卵した周期にそのまま新鮮な胚を戻す「新鮮胚移植」が中心でしたが、近年は採卵した胚をいったんすべて凍結し、体調を整えたうえで後日移植する「凍結融解胚移植(FET)」が主流になっています。

IVF周期数ICSI周期数FET周期数治療周期数合計出生児数合計出生児のうちFET比率
2001年32,67630,36913,03476,07913,15818.7%
2005年42,82247,57935,069125,47019,11234.2%
2010年67,71490,67783,770242,16128,94565.7%
2015年93,614155,797174,740424,15151,00179.6%
2020年82,883151,732215,285449,90060,38191.9%
2023年89,854195,657276,153561,66485,04895.0%

IVF=体外受精(媒精)、ICSI=顕微授精、FET=凍結融解胚移植。出生児数は多胎(双子など)を1人ずつ数えた人数です。

なぜこれほどFETが増えたのでしょうか。理由のひとつは、採卵した周期にすぐ移植するより、いったん全部凍結してから移植したほうが、子宮の状態を整えやすく、また卵巣刺激による影響が少ない状態で移植できるため、より良い結果につながりやすいと考えられるようになったことです。実際2023年には、採卵周期のうち IVFで約59%、ICSIで約60% が「全胚凍結」(新鮮胚移植をせず全ての胚を凍結する)となっており、新鮮胚移植そのものは年々少なくなっています。

2. 2023年の治療実績サマリー

2023年に行われた治療561,664周期の内訳は、FET周期が最も多く49.2%、次いでICSI周期が34.8%、IVF周期が16.0%でした。一方、出生児数でみると95.0%がFET由来であり、新鮮胚移植(IVF・ICSI)による出生はごくわずか(合計約5.0%)です。

治療周期数周期構成比出生児数出生児構成比
IVF(体外受精)89,85416.0%1,7722.1%
ICSI(顕微授精)195,65734.8%2,5022.9%
FET(凍結融解胚移植)276,15349.2%80,77495.0%
合計561,664100%85,048100%

全体としての治療結果(年齢を問わず全周期の平均)は次のとおりです。

39.0%妊娠率(胚移植1回あたり)
20.6%妊娠率(総治療周期あたり)
14.6%生産率(総治療周期あたり)
26.0%流産率(妊娠した周期のうち)

「総治療周期あたり」は、採卵できなかった・受精しなかった・全胚凍結で移植が別周期になった、といった周期も含めた分母で計算するため、実際に胚移植をした周期あたりの妊娠率(39.0%)より低い数字になります。どちらも大切な指標であり、「移植すれば約4割は妊娠する」「治療を開始した周期全体で見ると出産に至るのは約7周期に1周期」という2つの見方ができます。

3. 年齢によって治療成績はどう変わるか

体外受精の成績は年齢の影響を強く受けます。2023年のデータでは、妊娠率・生産率がもっとも高いのは28〜29歳ごろで、生産率(総治療周期あたり)は約23.7〜23.8%です。その後は年齢とともに徐々に低下し、35歳を過ぎると低下の速度が増し、40歳では10.6%、43歳では4.4%、45歳では1.7%まで下がります。一方、流産率は年齢とともに一貫して上昇し、26歳では約18.7%であるのに対し、40歳では35.6%、45歳では55.2%と、妊娠しても半数以上が流産となる年齢帯もあります。多胎率(双子など)は年齢による違いは大きくなく、全体でおよそ3.8%です。

読み方のポイント:年齢が上がるほど「妊娠しにくくなる」だけでなく「妊娠しても流産しやすくなる」ため、生産率(実際に出産に至る割合)は妊娠率以上に年齢の影響を受けます。これは加齢に伴い卵子の染色体異常が増えることが背景にあると考えられています。治療を考えている方は、年齢による変化を踏まえたうえで、早めに専門医に相談することが勧められます。

年齢別 治療成績詳細(2023年)

「全凍結周期を除く」列は、採卵はしたが胚移植をせず全て凍結した周期を除外し、実際に胚移植まで行った周期だけで計算した割合です。「全凍結周期を除く」妊娠率・生産率のほうが、その年に胚移植を実施した患者さんの実感に近い数字になります。

年齢 総治療
周期数
総治療周期数
(全凍結周期を
のぞく)
移植
周期数
妊娠
周期数
多胎数
(胎嚢確認時)
流産数 生産
周期数
妊娠率
/総ET
妊娠率・生産率
/総治療
妊娠率・生産率/総治療
(全凍結周期を除く)
流産率
/総妊娠
多胎率
妊娠率生産率妊娠率生産率
20歳以下1033114501435.7%4.9%3.9%16.1%12.9%20.0%0.00%
21592620902745.0%15.3%11.9%34.6%26.9%22.2%0.00%
22134725626032346.4%19.4%17.2%36.1%31.9%11.5%0.00%
23311191163781156047.9%25.1%19.3%40.8%31.4%19.2%1.28%
2466740736118033114449.9%27.0%21.6%44.2%35.4%17.2%1.67%
251,5979918644701610534354.4%29.4%21.5%47.4%34.6%22.3%3.40%
263,2332,0241,7579572917975454.5%29.6%23.3%47.3%37.3%18.7%3.03%
275,7543,6423,1441,653622671,32652.6%28.7%23.0%45.4%36.4%16.2%3.75%
289,6646,2075,4292,842994662,28752.3%29.4%23.7%45.8%36.8%16.4%3.48%
2914,4119,4268,1844,2771537323,43752.3%29.7%23.8%45.4%36.5%17.1%3.58%
3018,01611,85910,3705,2951899614,18151.1%29.4%23.2%44.6%35.3%18.1%3.57%
3121,66514,48412,6666,3422071,1605,00650.1%29.3%23.1%43.8%34.6%18.3%3.26%
3224,60316,79514,6317,2242921,3395,68549.4%29.4%23.1%43.0%33.8%18.5%4.04%
3327,91719,19016,6538,0763031,5846,26148.5%28.9%22.4%42.1%32.6%19.6%3.75%
3432,31422,31319,2669,2063271,9277,03947.8%28.5%21.8%41.3%31.5%20.9%3.55%
3535,09724,36320,7449,5593912,0997,20646.1%27.2%20.5%39.2%29.6%22.0%4.09%
3635,66424,85620,8359,2513672,1256,83244.4%25.9%19.2%37.2%27.5%23.0%3.97%
3738,10626,67821,7889,2983542,3656,66742.7%24.4%17.5%34.9%25.0%25.4%3.81%
3840,18228,25922,5458,9573762,4896,23139.7%22.3%15.5%31.7%22.0%27.8%4.20%
3946,18132,12324,4099,0173232,7905,96436.9%19.5%12.9%28.1%18.6%30.9%3.58%
4045,54432,24123,5787,8473152,7964,81933.3%17.2%10.6%24.3%14.9%35.6%4.01%
4141,53829,28119,6725,7632602,2323,38329.3%13.9%8.1%19.7%11.6%38.7%4.51%
4245,57232,39419,8034,8401612,1552,53124.4%10.6%5.6%14.9%7.8%44.5%3.33%
4327,19319,98812,2212,444781,1851,19120.0%9.0%4.4%12.2%6.0%48.5%3.19%
4417,94513,1337,0061,0772753750715.4%6.0%2.8%8.2%3.9%49.9%2.51%
4512,0129,1884,388500827620211.4%4.2%1.7%5.4%2.2%55.2%1.60%
467,2975,7702,5631905107757.4%2.6%1.0%3.3%1.3%56.3%2.63%
474,1273,3341,34582243386.1%2.0%0.9%2.5%1.1%52.4%2.44%
482,3231,91474141217225.5%1.8%0.9%2.1%1.1%41.5%4.88%
491,3001,13645926210145.7%2.0%1.1%2.3%1.2%38.5%7.69%
50歳以上1,1351,00542922111115.1%1.9%1.0%2.2%1.1%50.0%4.55%
合計561,664393,321296,104115,5544,35330,00982,25039.0%20.6%14.6%29.4%20.9%26.0%3.77%

4. 採卵周期における卵巣刺激法(周期管理方法)の内訳

体外受精・顕微授精では、採卵前に卵巣を刺激して複数の卵子を育てる方法(調節卵巣刺激法)にいくつかの種類があります。2023年に実施された採卵周期(IVF・ICSI合計 281,665周期)の内訳は次のとおりです。

周期管理方法2023年 周期数構成比2022年 周期数構成比
FSH+アンタゴニスト法60,44621.5%62,02522.5%
PPOS法(黄体ホルモン併用刺激法)45,93316.3%32,83011.9%
クロミフェン+FSH(CC+FSH)43,12615.3%42,08215.3%
その他33,21711.8%35,77613.0%
AI法(アロマターゼ阻害薬を含む)28,42310.1%26,3459.6%
FSH+アゴニスト法25,6399.1%25,1749.1%
クロミフェン単独(CC)23,0248.2%27,0609.8%
自然周期11,7104.2%13,6995.0%
FSH単独10,1473.6%10,3053.7%
合計281,665100%275,296100%

最も多く使われているのは注射(FSH製剤)にアンタゴニスト薬を組み合わせる方法で、全体の2割強を占めます。近年特に増えているのはPPOS法(黄体ホルモンを併用して排卵を抑える方法)で、2022年の11.9%から2023年には16.3%に増加しました。PPOS法は排卵抑制の仕組み上、その周期にできた胚は基本的にすべて凍結する(新鮮胚移植を行わない)ため、前述のFET増加とも関連しています。

自然周期・FSH単独
排卵誘発剤を使わない、または少量のみ使う、体への負担が少ない方法。
クロミフェン(CC)
飲み薬の排卵誘発剤。単独または注射(FSH)と併用します。
FSH+アンタゴニスト法/アゴニスト法
注射で複数の卵胞を育てつつ、早期排卵を防ぐ薬を併用する、もっとも標準的な刺激法です。
PPOS法
黄体ホルモン製剤を使って早期排卵を防ぐ方法。移植は必ず凍結融解胚移植になります。
AI法
レトロゾールなどのアロマターゼ阻害薬を用いる方法。

5. 胚移植周期における周期管理方法の内訳

5-1. 凍結融解胚移植(FET)

2023年に実施されたFET周期は271,361周期で、そのうち109,850周期が妊娠に至りました。内訳は次のとおりです。

周期管理方法FET周期数構成比うち妊娠周期数構成比
HRT(ホルモン補充周期)166,62961.4%67,03561.0%
自然周期85,37531.5%34,94031.8%
AI法12,0754.4%5,1534.7%
FSH3,3091.2%1,3821.3%
CC1,8410.7%5360.5%
その他1,4080.5%5350.5%
CC+FSH7240.3%2690.2%
合計271,361100%109,850100%

凍結融解胚移植では、排卵誘発剤を使わず自然な排卵に合わせて移植する「自然周期法」と、ホルモン剤で子宮内膜を整えてから移植する「HRT(ホルモン補充周期)法」が広く使われています。2023年はHRT法が約6割と最も多く用いられました。HRT法は移植日をあらかじめ計画しやすい一方、自然周期法は薬剤使用が少ないという特徴があります。どちらを選ぶかは、排卵の状態や施設の方針によって異なります。

5-2. 新鮮胚移植(IVF・ICSI)

新鮮胚移植(採卵した周期にそのまま移植する方法)で妊娠に至った周期(2023年、IVF・ICSI合計5,704周期)の周期管理方法の内訳は次のとおりです。PPOS法は前述のとおり全胚凍結となるため、新鮮胚移植による妊娠はありません。

周期管理方法妊娠周期数構成比
FSH+アンタゴニスト法1,57727.6%
AI法1,15820.3%
FSH+アゴニスト法92216.2%
その他66911.7%
クロミフェン+FSH(CC+FSH)65011.4%
クロミフェン単独(CC)3055.3%
自然周期2394.2%
FSH単独1843.2%
PPOS法00.0%
合計5,704100%

6. 用語集

ART(生殖補助医療)
体外受精・顕微授精・凍結融解胚移植など、卵子や胚を体外で扱う不妊治療の総称です。
IVF(体外受精)
採取した卵子と精子を体外(シャーレの中)で受精させる方法です。
ICSI(顕微授精/卵細胞質内精子注入法)
1個の精子を細い針で卵子に直接注入して受精させる方法です。
SPLIT
1回の採卵で得られた卵子を2つのグループに分け、一部をIVF、残りをICSIで受精させる方法です。
ET(胚移植)
受精してできた胚を子宮内に戻す処置です。
FET(凍結融解胚移植)
いったん凍結保存した胚を、後日融解して子宮に戻す方法です。
GIFT(配偶子卵管内移植)
卵子と精子を卵管内に直接移植する方法(現在は実施数が非常に少ない方法です)。
採卵周期数
実際に採卵(卵子を採取する処置)が行われた周期の数。新鮮胚移植周期・全胚凍結周期・卵子が得られなかった周期も含みます。
総治療周期数
採卵に至らなかった周期も含め、その年に実施されたすべての治療周期の数です。
移植周期数
実際に胚移植が行われた周期の数です。
全胚凍結周期
採卵後、その周期には新鮮胚移植をせず、得られた胚をすべて凍結保存した周期です。
妊娠周期数
胎嚢(妊娠のごく初期に子宮内に見える袋状の構造)が超音波検査で確認され、妊娠成立と判定された周期の数です。
生産周期数
実際に出産(生きて生まれること)に至った周期の数です。
多胎
双子・三つ子など、2人以上の胎児が同時に子宮内に存在する状態です。

まとめ – データを読むうえで大切なこと

2023年のデータから読み取れる主なポイントは次の3つです。第一に、日本のART治療は年々規模を拡大し、生まれてくる子どものおよそ9人に1人がARTによるものになっていること。第二に、治療の中心が新鮮胚移植から凍結融解胚移植(FET)へと大きく移り、出生児の95%がFET由来であること。第三に、妊娠率・生産率は年齢とともに低下し、流産率は年齢とともに上昇するため、治療を検討する際は年齢の影響を理解しておくことが重要であるということです。

これらの数字はあくまで全国平均の統計です。実際の治療成績は、年齢だけでなく卵巣機能(AMH値など)、不妊の原因、これまでの治療歴、パートナーの状態など、個々の状況によって大きく異なります。ご自身やパートナーの状況に照らした具体的な見通しについては、通院先の主治医と十分に相談することをお勧めします。

出典:日本産科婦人科学会「2023年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績」(ARTデータブック)
https://www.jsog.or.jp/activity/art/2023_JSOG-ART.pdf
本資料は上記データをもとに、一般の患者さん向けにわかりやすく再構成した解説であり、日本産科婦人科学会が作成した公式資料そのものではありません。正確な数値・詳細な解説は「日本産科婦人科学会雑誌」および学会公式のデータブックをご参照ください。
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